サイト内検索

検索結果 合計:245件 表示位置:1 - 20

1.

PNHに対するC5阻害薬と併用する世界初の経口薬、ボイデヤ発売/アレクシオン

 アレクシオンファーマは2024年4月17日、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬としてボイデヤ(一般名:ダニコパン)を同日より発売開始したことを発表した。 PNHは、血管内溶血として知られる血管内の赤血球破壊と、白血球および血小板の活性化を特徴とするまれで重度の血液疾患であり、血栓症を引き起こし、臓器障害や早期死亡に至る可能性がある。C5阻害薬のユルトミリス(一般名:ラブリズマブ[遺伝子組換え])またはソリリス(一般名:エクリズマブ[遺伝子組換え])は、補体C5を阻害して終末補体を抑制することで症状および合併症を軽減し、PNH患者の生存率への影響が期待できる薬剤である。C5阻害薬を投与下のPNH患者の約10~20%に臨床的に問題となる血管外溶血が顕在化し、持続的な貧血症状や定期的な輸血が必要となるケースがある。 本剤は、「発作性夜間ヘモグロビン尿症」を効能または効果とし、C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合にC5阻害薬と併用して投与される。C5阻害薬のユルトミリスまたはソリリスと併用投与する薬剤として開発されたファースト・イン・クラスの経口補体D因子阻害薬である本剤は、C5阻害薬の治療中に臨床的に問題となる血管外溶血が生じる特定のPNH患者(約10~20%)のニーズに対応する。 本剤の承認は、国際共同第III相臨床試験(ALPHA試験)から得られた肯定的な結果に基づく。同試験における12週間の主要評価期間の結果については、Lancet Haematology誌に掲載されている1)。ALPHA試験では、ヘモグロビンが9.5g/dL以下かつ網状赤血球数が120×109/L以上と定義した臨床的に問題となる血管外溶血を示すPNH患者を対象に、ユルトミリスまたはソリリスに本剤を併用した際の有効性および安全性を評価した。その結果、プラセボ群と比較した投与12週時点のヘモグロビンのベースラインからの変化量という主要評価項目を達成したほか、輸血回避および慢性疾患治療の機能的評価-疲労(FACIT-Fatigue)スコアの変化量を含む主な副次評価項目を達成した。ALPHA試験の結果において、安全性と忍容性に新たな懸念は認められず、本試験で最も多く報告された有害事象は頭痛、悪心、関節痛および下痢であった。 アレクシオンファーマ社長の笠茂 公弘氏は、「当社は『すべての希少疾患をもつ人々に人生を変える治療法と希望を届ける』というパーパスを掲げ、より早く、より多くの患者さんのニーズに応えるよう務めている。ボイデヤが、これまで以上にPNHをもつ患者さんとそのご家族のより良い生活に寄与できることを願っている」としている。

2.

C5阻害薬との併用で血管外溶血を抑制する経口PNH治療薬「ボイデヤ錠50mg」【最新!DI情報】第13回

C5阻害薬との併用で血管外溶血を抑制する経口PNH治療薬「ボイデヤ錠50mg」今回は、補体D因子阻害薬「ダニコパン(商品名:ボイデヤ錠50mg、製造販売元:アレクシオンファーマ)」を紹介します。本剤は、補体(C5)阻害薬と併用することで、発作性夜間ヘモグロビン尿症患者の輸血の必要性が軽減し、患者QOLや転帰が改善することが期待されています。<効能・効果>発作性夜間ヘモグロビン尿症の適応で、2024年1月18日に製造販売承認を取得しました。本剤は、補体(C5)阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合に、補体(C5)阻害薬と併用して投与します。<用法・用量>通常、成人には、補体(C5)阻害薬との併用において、ダニコパンとして1回150mgを1日3回食後に経口投与します。効果不十分な場合には1回200mgまで増量することができます。なお、本剤を漸減せずに中止した場合は肝機能障害が現れる恐れがあるため、本剤の投与を中止する場合は最低6日間かけて、1回100mgを1日3回3日間、その後1回50mgを1日3回3日間投与してから中止します。<安全性>本剤により、髄膜炎または敗血症を発症し、急速に生命を脅かす、あるいは死亡に至る恐れがあるため、初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血など)の観察を十分に行う必要があります。また、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの莢膜形成細菌による重篤な感染症(頻度不明)が現れることがあります。その他の主な副作用として、肝酵素上昇(ALT上昇、トランスアミナーゼ上昇など[5%以上])などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療に用いる薬です。補体(C5)阻害薬で効果が不十分な場合に、C5阻害薬と併用して投与されます。2.C5阻害薬の治療中に生じる血管外溶血を防ぎ、輸血の必要性を軽減します。3.投与中に発熱や悪寒、頭痛など感染症を疑う症状が現れた場合は、たとえ軽度であっても主治医に連絡し、直ちに診察を受けてください。4.肝機能検査値異常が起きることがあるので、定期的に肝機能検査を受けてください。<ここがポイント!>発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は血管内溶血およびヘモグロビン尿を特徴とする造血幹細胞疾患です。治療には、補体(C5)阻害薬であるエクリズマブやラブリズマブが用いられ、終末補体経路を持続的に阻害することで血管内溶血を効果的に防ぐことができます。しかし、一部の患者では、終末補体経路の活性化を阻害することで、補体(C3)フラグメントがPNH赤血球の膜上に蓄積して血管外溶血が顕在化し、頻回の輸血が必要になることがあります。そのため、2023年9月よりC3とC3bをターゲットとしたペグセタコプランが臨床使用されていますが、ペグセタコプランで効果が不十分の場合はより重篤なブレイクスルー溶血が懸念されます。ダニコパンは、補体D因子のセリンプロテアーゼ活性を阻害し、補体第二経路の活性化を阻害することでC3フラグメント沈着を阻止します。したがって、血管内溶血を抑制するC5阻害薬とダニコパンを併用することで、血管外溶血も抑制することが期待されます。ダニコパンは生命予後に影響を及ぼす血管内溶血を抑制する、C5阻害薬と併用可能な唯一の経口PNH治療薬です。ラブリズマブまたはエクリズマブが投与されていて血管外溶血が認められるPNH患者を対象とした国際共同第III相試験(ALPHA試験:ALXN2040-PNH-301試験)において、主要評価項目である投与12週時点のヘモグロビン濃度のベースラインからの変化量の最小二乗平均値(標準誤差)は、ダニコパン群で2.940(0.2107)g/dL、プラセボ群で0.496(0.3128)g/dLであり、ダニコパンの優越性が示されました(p<0.0001)。また、副次評価項目である輸血回避できた患者の割合(投与開始から12週間)は、ダニコパン群83.3%、プラセボ群38.1%で、有意な差が認められました(p=0.0004)。

3.

治療に対する不安を軽くするには?【もったいない患者対応】第3回

治療に対する不安を軽くするには?登場人物今日来た患者さん、とても不安が強くて治療の説明をしてもなかなか必要性を理解してもらえないんです。なぜそんなに不安が強いのかな?どうやら同じ病気の友達にいろいろ言われたらしく…。副作用が多いからやめたほうがいいとか…。患者さんは友達の体験談に大きな影響を受けるからね。ですよね。どうすればいいんでしょう?先生は同じ治療を安全に受けた患者さんをたくさん知ってるよね?そのことに少し触れてみるのはどうだろう?実体験を例に挙げるたとえば、患者さんが下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)を受ける予定で、その説明を医師から受けるとします。しかし実は事前に知人から、「大腸カメラはすごく痛いよ!」「大腸カメラで大腸に穴が空いた人がいるらしいよ!」「前日の下剤がつらすぎて二度と受けたくない!」という話を聞いていたとしたら、患者さんはどういう思いを抱いているでしょうか? 「たった1人の事例が自分に当てはまるとは限らないし、個人差はあるに決まっているだろうから信用しない」などと冷静に判断できる人はおそらくいないでしょう。誰もが「自分も同じ目にあうかもしれない」と強い不安を抱くはずです。患者さんにとって、“親しい人からの体験談”ほど大きな影響を与えるものはないからです。そこで、私たちもそれを逆手にとり、不安が強い患者さんには「参考程度」に体験談をお伝えするのも1つの手です。たとえば、私は大腸カメラを2度受けた経験があるので、「私も大腸カメラを受けたことがあるんですが、全然痛くなかったんですよ。もちろん個人差はあると思いますが…」「私も下剤を飲んだとき夜中に何度かトイレに起きたのですが、お腹が痛くてつらい、ということはなかったです」と伝えています。実際に同じ検査や治療を受けた患者さんの事例を、個人情報に注意しながら例に出してみてもよいでしょう。もちろん、「n=1」の体験談は医学的には大きな意味をもちませんから、「個人差はありますよ」「ケースバイケースですよ」という補足説明は必要ですし、リスクについてはデータをもとに客観的な情報を提供すべきです。しかし、「実際にそういう感想もある」と知っておくことが、患者さんの心理的負担を少し軽くするのは間違いないでしょう。「相反する例」をうまく使う治療や検査の必要性をきちんと理解してもらうなら、「相反する例」をうまく利用するのも1つの手です。患者さんに「AはBです」と伝えたいときに、「AがBでなかったらどうなるか」を引き合いに出し、対比を浮き彫りにして理解してもらいやすくする、という手法です。たとえば、化学療法を受ける予定の患者さんに制吐薬を処方するとします。医師にとって、化学療法に制吐薬を併用するのは当たり前のことですが、患者さんにとっては初めての体験です。そこで、「吐き気止めを処方しておきますね」と言うだけで済ませるのではなく、「もし吐き気止めを使わないと、〇〇という状況になることが予想されます(〇%くらいの人に吐き気が起こると言われています)ので、吐き気止めを処方しますね」というふうに話します。他にも、たとえば輸血が必要な患者さんに対しては、「もし輸血をしないと〇〇になってしまうので、今日は輸血を行いましょう」というように伝えることが可能です。もちろん「脅す」という意味ではありません。治療の必要性を理解するためには、「治療をしなかった未来」を具体的に思い描いていただくことが有効だという意味です。これとは少し違うものの、似た例をあげてみます。以前、私の指導医は、肝臓切除の手術前に必ず、「実は、昔は肝臓は切れない臓器だと言われていました。肝臓は血管の塊だからです。いまはいろんな道具が出てきて、ようやく切れるようになったんです」と説明していました。技術が進歩する前は肝臓を「切ることすらできなかった」と伝えることで、「出血リスクが高すぎて手術が困難だった昔」を引き合いに出し、出血リスクの大きさを患者さんが理解しやすくしていたのです。

4.

第205回 アドレナリンを「打てない、打たない」医者たちを減らすには(後編) 「ここで使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがある

インタビュー: 海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)昨年11月8日掲載の、本連載「第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安」は、2023年に公開されたケアネットのコンテンツの中で最も読まれた記事でした。同記事が読まれた理由の一つには、この事故を他人事とは思えなかった医師が少なからずいたためと考えられます。そこで、前回に引き続き、この記事に関連して行った、日本アレルギー学会理事長である海老澤 元宏氏(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長)へのインタビューを掲載します。愛西市コロナワクチン投与事故の背景には何があったと考えられるのか、「エピペンを打てない、打たない医師たち」はなぜ存在するのか、「アナフィラキシーガイドライン2022」のポイントなどについて、海老澤氏にお聞きしました。(聞き手:萬田 桃)造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得る(前回からの続き)――「薬剤の場合にこうした呼吸器症状、循環器症状単独のアナフィラキシーが起こりやすく、かつ症状が進行するスピードも早い」とのことですが、どういった薬剤で起こりやすいですか。海老澤造影剤、抗がん剤、抗生物質製剤などなんでも起こり得ます。とくにIV (静脈注射)のケースでよく起こり得るので、呼吸器単独でも起こり得るという知識がないとアナフィラキシーを見逃し、アドレナリンの筋注の遅れにつながります。ちなみに、2015年10月1日〜17年9月30日の2年間に、医療事故調査・支援センターに報告された院内調査結果報告書476件のうち、死因をアナフィラキシーと確定または推定したのは12例で、誘引はすべて注射剤でした。造影剤4例、抗生物質製剤4例、筋弛緩剤2例などとなっていました。――病院でも死亡例があるのですね。海老澤IV(静脈注射)で起きたときは症状の進行がとても速く、時間的な余裕があまりないケースが多いです。また、心臓カテーテルで造影剤を投与している場合は動脈なので、もっと速い。薬剤ではないですが、ハチに刺されたときのアナフィラキシーも比較的進行が速いです。こうしたケースで致死的なアナフィラキシーが起こりやすいのです。2001~20年の厚労省の人口動態統計では、アナフィラキシーショックの死亡例は1,161例で、一番多かったのは医薬品で452例、次いでハチによる刺傷、いわゆるハチ毒で371例、3番目が食品で49例でした。そして、そもそもアナフィラキシーを見逃すことは致命的ですが、対応しても手遅れとなってしまうケースもあります。病院の救急部門などで治療する医師の中には、「ルートを取ってまず抗ヒスタミン薬やステロイドで様子を見よう」という方がまだいるようです。しかし、その過程で「ここでアドレナリンを使わなきゃいけない」というタイミングで適切に使えていないケースがあるのです。先程の死亡例の中にもそうしたケースがあります。点滴静注した後の経過観察が重要――いつでもどこでも起き得るということですね。医療機関として準備しておくことは。海老澤大規模な医療機関ではどこでもそうなっていると思いますが、たとえば当院では、アドレナリン注シリンジは病棟、外来、検査室、処置室などすべてに置いてあります。ただ、アドレナリンだけで軽快しないケースもあるので、その後の体制についても整えておく必要があります。加えて重要なのは、薬剤を点滴静注した後の経過観察です。抗がん剤、抗生物質、輸血などは処置後の10分、20分、30分という経過観察が重要なので、そこは怠らないようにしないといけません。ただ、処方薬の場合、自宅などで服用してアナフィラキシーが起こることになります。たとえば、NSAIDs過敏症の方がNSAIDを間違って服用するとアナフィラキシーが起こり、不幸な転帰となる場合があります。そうした点は、事前の患者さんや家族からのヒアリングに加えて、歯科も含めて医療機関間で患者さんの医療情報を共有することが今後の課題だと言えます。抗ヒスタミン薬とステロイド薬で何とか対応できると考えている医師も一定数いる――先ほど、「僕らの世代から上の医師だと、“心肺蘇生に使う薬”というイメージを抱いている方がまだまだ多い」と話されましたが、アナフィラキシーの場合、「最初からアドレナリン」が定着しているわけでもないのですね。海老澤アナフィラキシーという診断を下したらアドレナリン使っていくべきですが、たとえば皮膚粘膜の症状だけが最初に出てきたりすると、抗ヒスタミン薬をまず使って様子を見る、ということは私たちも時々やることです。もちろん、アドレナリンをきちんと用意したうえでのことですが。一方で、抗ヒスタミン薬とステロイド薬でアナフィラキシーを何とか対応できると考えている医師も、一定数いることは事実です。ルートを確保して、抗ヒスタミン薬とステロイド薬を投与して、なんとか治まったという経験があったりすると、すぐにアドレナリン打とうとは考えないかもしれません。PMDAの事例などを見ると、アナフィラキシーを起こした後、死亡に至るというのは数%程度です。そういった数字からも「すぐにアドレナリン」とならないのかもしれません。アナフィラキシーやアレルギーの診療に慣れている医師だと、「これはアドレナリンを打ったほうが患者さんは楽になるな」と判断して打っています。すごくきつい腹痛とか、皮膚症状が出て呼吸も苦しくなってきている時に打つと、すっと落ち着いていきますから。打てない、打たない医者たちを減らしていくには――打つタイミングで注意すべき点は。海老澤血圧が下がり始める前の段階で使わないと、1回で効果が出ないことがよくあります。「血圧がまだ下がってないからまだ打たない」と考える人もいますが、本来ならば血圧が下がる前にアドレナリンを使うべきだと思います。――「打ち切れない」ということでは、食物アレルギーの患者さんが所持している「エピペン」についても同様のことが指摘されていますね。海老澤文科省の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」1)によれば、学校で子供がアナフィラキシーを発症した場合、学校職員がエピペン打ったというのは28.5%に留まっていました。一番多かったのは救急救命士で31.9%、自己注射は23.7%でした。やはり、打つのをためらうという状況は依然としてあるので、そのあたりの啓発、トレーニングはこれからも重要だと考えます。――教師など学校職員もそうですが、今回の事件で浮き彫りになった、アドレナリンを「打てない」「打たない」医師たちを減らしていくにはどうしたらいいでしょうか。海老澤エピペン注射液を患者に処方するには登録が必要なのですが、今回、コロナワクチンの接種を契機にその登録数が増えたと聞いています。登録医はeラーニングなどで事前にその効能・効果や打ち方などを学ぶわけですが、そうした医師が増えてくれば、自らもアドレナリン筋注を躊躇しなくなっていくのではないでしょうか。立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わない――最後に、2022年に改訂した「アナフィラキシーガイドライン」のポイントについて、改めてお話しいただけますか。海老澤診断基準の2番目で、「典型的な皮膚症状を伴わなくてもいきなり単独で血圧が下がる」、「単独で呼吸器系の症状が出る」といったことが起こると明文化した点です。食物によるアナフィラキシーは一番頻度が高いのですが、9割方、皮膚や粘膜に症状が出ます。多くの医師はそういったイメージを持っていると思いますが、ワクチンを含めて、薬物を注射などで投与する場合、循環器系や呼吸器系の症状がいきなり現れることがあるので注意が必要です。――初期対応における注意点はありますか。海老澤ガイドラインにも記載してあるのですが、診療経験のない医師や、学校職員など一般の人がアナフィラキシーの患者に対応する際に注意していただきたいポイントの一つは「患者さんの体位」です。アナフィラキシー発症時には体位変換をきっかけに急変する可能性があります。明らかな血圧低下が認められない状態でも、原則として立位ではなく仰臥位にして、急に立ち上がったり座ったりする動作を行わないことが重要です。2012年に東京・調布市の小学校で女子児童が給食に含まれていた食物のアレルギーによるアナフィラキシーで死亡するという事故がありました。このときの容態急変のきっかけは、トイレに行きたいと言った児童を養護教諭がおぶってトイレに連れて行ったことでした。トイレで心肺停止に陥り、その状況でエピペンもAEDも使用されましたが奏効しませんでした2)。アナフィラキシーを起こして血圧が下がっている時に、急激に患者を立位や座位にすると、心室内や大動脈に十分に血液が充満していない”空”の状態に陥ります。こうした状態でアドレナリンを投与しても、心臓は空打ちとなり、心拍出量の低下や心室細動など不整脈の誘発をもたらし、最悪、いきなり心停止ということも起きます。――そもそも動かしてはいけないわけですね。海老澤はい。ですから、仰臥位で安静にしていることが非常に重要です。とにかく医療機関に運び込めば、ほとんどと言っていいほど助けられますから。アナフィラキシーは症状がどんどん進んで状態が悪化していきます。そうした進行をまず現場で少しでも遅らせることができるのが、アドレナリン筋注なのです。(2024年1月23日収録)参考1)令和4年度アレルギー疾患に関する調査報告書/日本学校保健会2)調布市立学校児童死亡事故検証結果報告書概要版/文部科学省

5.

snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用する【国試のトリセツ】第32回

§2 診断推論snap diagnosisでは以降の情報を確認目的に利用するQuestion〈110I52〉62歳の男性。発熱を主訴に来院した。統合失調症のため30歳ころから精神科病院に入退院をくり返し、ハロペリドール、ゾテピンおよびニトラゼパムを服用している。昨日から40℃の発熱と高度の発汗があり心配した家族に付き添われて受診した。家族によれば普段より反応が鈍いという。持参した昨年の健康診断の結果でクレアチニンは0.7mg/dLであった。来院時、意識レベルはJCSII-10。身長168cm、体重61kg。体温39.0℃。脈拍112/分、整。血圧150/82mmHg。咽頭粘膜に発赤はなく、胸部に異常を認めない。腸雑音は低下している。筋強剛が強くみられる。尿所見蛋白1+、潜血2+、沈渣に赤血球1~ 4個/1視野。血液所見赤血球304万、Hb9.5g/dL、Ht27%、白血球8,800、血小板13万。血液生化学所見総蛋白6.5g/dL、アルブミン3.6g/dL、AST225IU/L、ALT129IU/L、LD848IU/L(基準176~353)、CK35,000IU/L(基準30~140)、尿素窒素53mg/dL、クレアチニン2.5mg/dL、Na135mEq/L、K5.3 mEq/L、Cl106mEq/L。適切な対応はどれか。(a)免疫グロブリン製剤投与(b)ステロイドパルス療法(c)抗精神病薬の継続(d)赤血球輸血(e)大量輸液

6.

経口PNH治療薬iptacopan、ヘモグロビン値を改善/NEJM

 抗C5モノクローナル抗体療法を受けているが貧血が持続する発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)患者、および補体阻害薬の治療歴がなく乳酸脱水素酵素(LDH)が高値のPNH患者に対し、経口B因子阻害薬のiptacopanは、赤血球輸血なしでのヘモグロビン値上昇をもたらしたことが示された。フランス・サン・ルイ病院のRegis Peffault de Latour氏らが、2件の第III相臨床試験の結果を報告した。抗C5抗体療法を受けている患者あるいは補体阻害薬治療を受けていないPNH患者にとって、溶血性貧血の持続と経口薬がないことは大きな課題だった。NEJM誌2024年3月14日号掲載の報告。赤血球輸血なしでのヘモグロビン値の上昇を評価 研究グループは、ヘモグロビン値10g/dL未満のPNH患者を対象にした2件の第III相試験で、24週間のiptacopan単剤療法を評価した。第1試験では、抗C5抗体療法を受けていた患者を、iptacopanに切り替える群と、抗C5抗体療法を継続する群に無作為に割り付け評価。第2試験は単群試験で、補体阻害薬による治療歴がなく、LDHが正常上限値の1.5倍超の患者にiptacopanを投与し評価した。 第1試験の主要エンドポイントは2つで、いずれも赤血球輸血なしで、ヘモグロビン値がベースラインから2g/dL以上上昇すること、ヘモグロビン値が12g/dL以上になることだった。第2試験の主要エンドポイントは、赤血球輸血なしで、ヘモグロビン値がベースラインから2g/dL以上上昇することだった。ヘモグロビン値12g/dL以上への改善、iptacopan群42/60例、抗C5抗体療法群0例 第1試験では、iptacopanを受けた60例のうち51例が、赤血球輸血なしでヘモグロビン値がベースラインから2g/dL以上上昇し、うち同42例はヘモグロビン値12g/dL以上となった。抗C5抗体療法を受けた35例の患者では、主要エンドポイントの達成は認められなかった。 第2試験では、31/33例が、赤血球輸血なしでヘモグロビン値がベースラインから2g/dL以上上昇した。 第1試験ではiptacopan群62例中59例で、抗C5抗体療法継続群35例中14例が輸血を必要としなかったか受けなかった。第2試験では、輸血を必要としたまたは受けた人はいなかった。 iptacopan投与によって、ヘモグロビン値が上昇、疲労が軽減され、網赤血球数とビリルビン値が低下し、その結果、LDH平均値が正常値上限の1.5倍未満となった。iptacopanによる有害事象で最も多くみられたのは、頭痛だった。

7.

肥満手術、長期の血糖コントロールが内科的介入より良好/JAMA

 肥満者の2型糖尿病の治療において、内科的介入+生活様式介入と比較して肥満手術は、術後7年の時点で糖尿病治療薬の使用例が少ないにもかかわらず血糖コントロールが優れ、糖尿病の寛解率も高いことが、米国・ピッツバーグ大学のAnita P. Courcoulas氏らが実施した「ARMMS-T2D試験」の長期の追跡結果から明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2024年2月27日号に掲載された。4つの単独無作為化試験の長期結果の統合解析 ARMMS-T2D試験は、2007年5月1日~2013年8月30日に、2型糖尿病における内科的/生活様式管理と肥満手術の有効性、効果の持続性、安全性の評価を目的に、米国の4施設がそれぞれ単独で行った無作為化試験の統合解析である(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所[NIDDK]の助成を受けた)。 2型糖尿病の診断を受け、BMI値27~45の患者を、内科的管理と生活様式管理を受ける群、または3種の肥満外科手術(Roux-en-Y胃バイパス術、スリーブ状胃切除術、調節性胃バンディング術)のいずれかを受ける群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、ベースラインから7年後までのヘモグロビンA1c(HbA1c)の変化であった。最長で12年間のデータが得られた。12年後の血糖コントロールも良好 この統合解析では、適格例305例のうち262例(86%)を長期追跡の対象とした(肥満手術群166例、内科的/生活様式管理群96例)。全体の平均年齢は49.9(SD 8.3)歳、女性が68.3%で、平均BMI値は36.4(SD 3.5)であった。追跡期間中に内科的/生活様式管理群の25%が肥満手術を受けた。追跡期間中央値は11年だった。 7年後の時点で、平均HbA1cは、内科的/生活様式管理群でベースラインの8.2%から8.0%へと低下し(変化の群間差:-0.2%、95%信頼区間[CI]:-0.5~0.2)、肥満手術群では8.7%から7.2%へと低下した(-1.6%、-1.8~-1.3)。7年時の変化の群間差は-1.4%(95%CI:-1.8~-1.0)であり、肥満手術群でHbA1cの改善効果が有意に優れた(p<0.001)。 12年後の時点での平均HbA1cの変化の群間差は-1.1%(95%CI:-1.7~-0.5)であり、有意差を認めた(p=0.002)。 また、肥満手術群で改善した血糖コントロールは、糖尿病治療薬の使用例がより少ない状態で達成された。ベースラインの糖尿病治療薬の使用率は両群で同程度であり(内科的/生活様式管理群99.0%、肥満手術群97.6%)、7年後まで内科的/生活様式管理群では経時的な変化がみられなかった(7年時使用率96.0%、変化のp=0.19)のに対し、肥満手術群では1年後には38.0%(62/163例)に減少し、7年後も有意に低い状態を維持していた(7年時使用率60.5%[72/119例]、変化のp<0.001)。貧血、骨折、消化器有害事象が多かった 2型糖尿病の寛解率は、7年後(内科的/生活様式管理群6.2%、肥満手術群18.2%、p=0.02)および12年後(0.0% vs.12.7%、p<0.001)のいずれにおいても、肥満手術群で有意に優れた。 12年間に4例(各群2例)が死亡した。主要心血管有害事象の発生は両群で同程度だった。また、肥満手術群で、輸血を要する貧血(3.1% vs.12%)、骨折(5.2% vs.13.3%)、消化器有害事象(胃/吻合部潰瘍[2.1% vs.6%]、胆石/胆嚢炎[3.1% vs.5.4%]、腸閉塞[1% vs.1.8%]など)の頻度が高かった。 著者は、「これらの結果を既存のエビデンスと統合すると、肥満者の2型糖尿病の治療において肥満手術の適用を支持するものである」としている。

8.

外傷による大量出血、早めの全血輸血が生存率を高める

 外傷により大量出血を来している患者には、病院到着後にできるだけ早く全血輸血を行うことで、患者の生存率が改善する可能性のあることが新たな研究で明らかにされた。ただし、病院到着後の全血輸血がたった14分遅れただけでも、それが生存にもたらすベネフィットは著しく減少することも示されたという。米ボストン大学医学部外科分野のCrisanto Torres氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に1月31日掲載された。 Torres氏らによると、現行の外傷救急治療では、重度の出血による輸血を必要とする患者の凝固障害リスクを緩和するために、赤血球や血小板などの特定の血液成分製剤をバランスよく輸血するアプローチを取るべきことが強調されているという。米国では、外傷患者に対する治療は年々進歩しているものの、大量出血による死亡は依然として予防可能な死因の中で最も多く、克服すべき課題であることに変わりはない。 こうした中、外傷センターでは、成分輸血療法に基づく大量輸血プロトコル(MTP)の補助手段としての全血輸血に対する関心が再び高まりを見せている。最近の研究でも、全血輸血が外傷患者の病院到着から24時間後および30日後の死亡率の低下と関連することが示されている。しかし、全血輸血のタイミングが患者の生存に与える影響についてのエビデンスはいまだ十分ではない。 そこでTorres氏らは、外傷による大量出血のためにMTPが必要とされ、24時間以内に全血輸血を受けた18歳以上の救急外来(ED)患者1,394人(年齢中央値39歳、男性83%)の症例を分析した。大量出血は、収縮期血圧が90mmHg未満で、ショック指数が1より大きく、MTPが必要な場合と定義された。ショック指数は出血性ショックの評価に用いられる指標で、1.0以上でショック状態と見なされる。ED到着から24時間以内の任意の時点において、MTPの補助としての全血輸血を早期に受けた患者と受けていない患者との間で、ED到着から24時間後と30日後の生存について比較した。 その結果、任意の時点で早期に全血輸血を受けた患者は、それより後に全血輸血を受けた患者に比べて、ED到着から24時間後の死亡リスクが有意に低いことが示された(調整ハザード比0.40、95%信頼区間0.22〜0.73、P=0.003)。このような早期の全血輸血が生存にもたらすベネフィットは、ED到着から30日後でも認められた(同0.32、0.22〜0.45、P<0.001)。さらに、ED到着から全血輸血までの時間が14分を過ぎると、生存の確率は著しく低下することも明らかになった。 Torres氏は、「われわれの研究結果は、病院到着後14分以内の全血輸血の実施を目標とすべきことを示唆するものだ。全血輸血が1分遅れるごとに生存率は低下するが、最も顕著な低下は14分以降に認められた」と話す。そして、「これらの知見は、臨床医や病院システムにとって、MTPに組み入れられる標準的な緊急輸血血液製剤に全血製剤を含めることを検討するきっかけになるかもしれない」と期待を示している。さらに同氏は、「傷害現場やEDへの搬送中に全血輸血を行うことでも、生存に対する同様のベネフィットを見込める可能性がある」とボストン大学のニュースリリースで付け加えている。

9.

PNH治療に新たな進展、ボイデヤによる今後の期待/アレクシオン

 アレクシオンファーマは2024年2月15日、「新たな治療薬『ボイデヤ』、C5阻害剤への国内初の併用薬が変える『発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)』治療の展望 ―持続する貧血・疲労感、定期的な輸血などPNH患者さんのアンメットニーズに対する個別化治療の提供―」と題したメディアセミナーを開催した。 同セミナーでは、血管内溶血およびヘモグロビン尿を特徴とする希少疾患、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)について、西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授)が「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)を取り巻く環境と治療の現状と課題」、小原 直氏(筑波大学 医学医療系 医療科学 教授)が「国際共同第III相試験(ALPHA試験)の結果に基づいた『ボイデヤ』への今後の期待」と題し、それぞれ講演を行った。その中で、西村氏からはPNHの病態、診断基準、治療戦略が、小原氏からはALPHA試験の解説およびボイデヤ(一般名:ダニコパン)の処方経験について述べられた。PNHの病態 PNHは、溶血とそれに続くヘモグロビン尿、血栓症、骨髄不全を3大症状とする。PNHでは血管内溶血が一酸化窒素(NO)低下を誘発することに伴う諸症状(肺高血圧症、男性機能障害、嚥下痛・嚥下困難、腹痛など)が生じ、PNHに特徴的な合併症の慢性腎臓病と血栓症は、それぞれ複数の機序が複合的に相まって引き起こされる。PNHの診断と診断基準の改訂 PNHの診断では、溶血所見(血清LDH値の上昇、網状赤血球増加、間接ビリルビン値上昇など)がある患者にPNHの疑いがあれば、フローサイトメトリー検査を実施する。診断基準は2022年に改訂され(『発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 令和4年度改訂版』)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質の欠損赤血球(PNHタイプ赤血球)の検出と定量において、PNHタイプ赤血球(II型+III型)が1%以上、かつ血清LDH値が正常上限の1.5倍以上の場合は「A.検査初見」を満たすDefinite(確定診断の要件)、それ以外の所見・症状は「B.補助的検査所見」「C.参考所見」として記載されることになった。溶血所見に基づいた重症度分類は、従来中等症に記載されていた臓器症状が、令和4年度改訂版では割愛された。治療戦略 治療の選択に関しては、溶血とそれに伴う血栓症、骨髄不全、それぞれについて必要な治療を別個に判断することが原則である。終末補体阻害薬であるソリリス(一般名:エクリズマブ)投与により、補体活性化経路中のC5転換酵素がブロックされて血管内溶血は止まるため、PNHの予後を大きく決定付ける血栓症は大幅に減少するが、上流の補体活性化により血管外溶血という新たな問題が生じる。 西村氏は、生命予後に大きく関わる血管内溶血をしっかり抑えることを第一に考えつつ、近位補体阻害薬のボイデヤで血管外溶血も同時に抑えていく治療戦略を提唱した。ALPHA試験 続く講演で小原氏は、ボイデヤが血管外溶血を抑制することを期待して開発されたこと、補体(C5)阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合に併用投与することを述べた。このボイデヤについて実施されたのが、「ALPHA試験(ALXN2040-PNH-301試験):ラブリズマブ又はエクリズマブ投与下で血管外溶血が認められるPNH患者を対象とした国際共同第III相試験」である。 同試験では、ユルトミリス(一般名:ラブリズマブ)/ソリリス投与後も貧血が残存する(Hb濃度が9.5g/dL以下、かつ網状赤血球数が120×109/L以上)、つまり造血に問題はないが血管外溶血が推測される患者を、ボイデヤ群57例、プラセボ群29例に無作為に割り付け、12週間の二重盲検期、12週間の継続投与期、その後の延長投与期にわたり投与を行った。 主要評価項目の投与12週時点のHb濃度のベースラインからの変化量は、ボイデヤ群は2.940g/dL(SE:0.2107)であったが、プラセボ群は0.496g/dL(SE:0.3128)と、ほとんど変化せず、ボイデヤ群のほうが貧血の改善も速やかであることが示された。同様の結果は日本人集団でも得られた。主な副次評価項目である、投与12週時点のHb濃度が輸血なしで2g/dL以上増加した患者の割合などについても、全体集団、日本人集団ともに良好な結果が得られた。 ボイデヤ群の有害事象は、全体集団ではGrade3が10例、Grade4が1例、試験薬投与中止に至った有害事象が3例(肝酵素上昇、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中ビリルビン増加および膵炎、各1例)にみられた。Grade3、Grade4の有害事象は、日本人集団では認められなかった。ボイデヤの処方経験 小原氏は、PNHと診断されてソリリスを投与され、LDHは著明に低下したが貧血の改善は乏しく、数ヵ月に1回の輸血を要し、ユルトミリスに変更後も貧血の改善も輸血の頻度も改善しなかった40代男性の例を紹介し、ボイデヤの併用によってHb濃度の改善、輸血の脱却、活動性の向上が得られたことを報告した。同氏は「ユルトミリスまたはソリリス投与下でボイデヤを追加経口投与することにより、血管内溶血の抑制を維持したまま、血管外溶血に伴う貧血の改善・抑制が可能であることが示された」と述べて講演を締めくくった。 補体(C5)阻害薬で治療中のPNH患者が抱える貧血など、これまで臨床的な課題とされてきた血管外溶血に対して、ボイデヤという新たな解決策が示された。今後、患者の負担軽減につながることに期待したい。

10.

骨髄異形成症候群に伴う貧血にルスパテルセプト承認/BMS

 ブリストル・マイヤーズ スクイブは2024年1月18日、ルスパテルセプト(商品名:レブロジル)について、骨髄異形成症候群(MDS)に伴う貧血を効能又は効果として、厚生労働省より製造販売承認を取得した。  ルスパテルセプトは、赤血球成熟促進薬として造血幹細胞から赤血球への分化過程の後期段階における分化を促進し、成熟した赤血球数の増加を誘導する新規作用機序の治療薬である。  今回の承認は、低リスクMDS患者を対象とした国際共同第III相試験(COMMANDS試験)、海外第III相試験(MEDALIST試験)、および赤血球輸血非依存の低リスクMDS患者を対象とした国内第II相試験(MDS-003試験)の結果にもとづいている。これらの試験から、ルスパテルセプトは赤血球造血刺激因子製剤の治療歴の有無ならびに赤血球輸血依存・非依存に関わらず、低リスクMDS患者の貧血の治療として、臨床的意義の高い効果を示した。安全性については、いずれの試験でも低リスク MDS患者に対して忍容性があり、 十分に管理可能な安全性プロファイルであることが示された。

11.

ハイゼントラ、プレフィルドシリンジの剤形追加承認を取得/CSLベーリング

 CSLベーリングは1月22日付のプレスリリースで、人免疫グロブリン製剤「ハイゼントラ20%皮下注」について、新剤形としてプレフィルドシリンジ製剤に対する医薬品製造販売承認を取得したことを発表した。 ハイゼントラは、効能・効果として2013年9月に「無又は低ガンマグロブリン血症」が承認され、2019年3月には「慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)」が追加された。2023年12月時点で米国、欧州を含む67以上の国と地域で承認されている。 同社の代表取締役社長である吉田 いづみ氏は、「このたびのプレフィルドシリンジ製剤の承認により、本剤を使用される患者さんおよび医療従事者の利便性向上と投与時の負担軽減につながることが期待されます。当社は、血漿分画製剤と免疫グロブリン補充療法のグローバル・リーダーとして、希少・難治性疾患の患者さんのアンメットニーズを満たし、患者さんの人生をより豊かなものにできるよう、これからも全力で取り組む所存です」としている。

12.

経口PNH治療薬ボイデヤ、C5阻害薬との併用で製造販売承認を取得/アレクシオン

 アレクシオンファーマは1月19日付のプレスリリースで、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として、経口補体D因子阻害薬ボイデヤ(一般名:ダニコパン)の製造販売承認を取得したことを発表した。本剤の効能または効果は「発作性夜間ヘモグロビン尿症」であり、「補体(C5)阻害剤による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合に、補体(C5)阻害剤と併用して投与すること」としている1)。 PNHは、血管内溶血(IVH)として知られる血管内の赤血球破壊を主な病態とする重度の希少血液疾患であり、臓器障害や早期死亡に至る可能性がある2-4)。治療においては、C5阻害薬であるユルトミリス(一般名:ラブリズマブ)またはソリリス(同:エクリズマブ)が終末補体を抑制することで、症状および合併症を軽減し、患者の生存率に影響することが期待されている4-7)。しかし、C5阻害薬を投与中のPNH患者の約10~20%には、臨床的に問題となる血管外溶血(EVH)が顕在化し、持続的な貧血症状から定期的な輸血が必要となることがある2, 8-11)。ボイデヤは、このような特定のPNH患者のニーズに対応すべく、ユルトミリスまたはソリリスと併用投与する薬剤として開発されたファースト・イン・クラスの薬剤である。 今回の承認は、Lancet Haematology誌に掲載された、成人PNH患者を対象とした国際共同第III相試験「ALPHA試験」(検証的試験)から得られた肯定的な結果に基づく12)。 ALPHA試験において、臨床的に問題となるEVHを示す成人PNH患者※を対象に、ユルトミリスまたはソリリスにボイデヤを併用した際の有効性および安全性が評価された。その結果、プラセボ群と比較した投与12週時点のヘモグロビンのベースラインからの変化量という主要評価項目の達成のほか、輸血回避および慢性疾患治療の機能的評価-疲労(FACIT-Fatigueスケール)スコアの変化量を含む、主な副次評価項目を達成した。ボイデヤは概して良好な忍容性を示し、新たな安全性の懸念は示されなかった。本試験で最も多く報告された有害事象は、頭痛、悪心、関節痛および下痢だった12)。※ヘモグロビンが9.5g/dL以下かつ網状赤血球数が120×109/L以上と定義 大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学 招聘教授の西村 純一氏は、「ALPHA試験では、ボイデヤをユルトミリスまたはソリリスと併用投与することで、IVHを抑制しながらヘモグロビン値が改善され、輸血の必要性が軽減されました。今回の承認取得により、C5阻害薬を継続しながら、体へ負担のかかるEVH症状を呈する患者さんの転帰を改善することが期待されます」と述べている。 また、Alexion(米国)のマーク・デュノワイエ最高経営責任者(CEO)は、次のように述べている。「20年を超えるPNH研究により、この希少疾患を効果的に治療するうえでのC5阻害薬の役割が強固なものとなり、私たちはこの疾患を持つ患者さんのために引き続き革新を起こしてまいります。C5阻害薬へ追加投与されるボイデヤは、すでに確立されている治療を中断することなく、臨床的に問題となるEVHの影響を受けている患者さんのニーズに対応するという当社の決意を示しています。日本において、この症状を有するPNH患者さんに新たな進展をお届けできると期待しています」。 ボイデヤは、米国食品医薬品局よりブレークスルーセラピーの指定を、欧州医薬品庁よりPRIority MEdicines(PRIME)の指定を受けている。また、本剤は米国、欧州、日本において、PNHの治療薬として希少疾病用医薬品の指定を受けている。■参考文献1)電子添付文書「ボイデヤ錠50mg」2024年1月作成(第1版)2)Brodsky RA. Blood. 2014;124:2804-2811.3)Griffin M, et al. Haematologica. 2019;104:e94-e96.4)Hillmen P, et al. N Engl J Med. 2006;355:1233-1243.5)Lee JW, et al. Expert Rev Clin Pharmacol. 2022;15:851-861.6)Kulasekararaj AG, et al. Eur J Haematol. 2022;109:205-214.7)Kulasekararaj A, et al. Hemasphere. 2022;6(Suppl):706-707. 8)Kulasekararaj AG, et al. Presented at: European Hematology Association (EHA) Hybrid Congress. 8-11 Jun 2023; Frankfurt, Germany. Abs PB2056.9)Kulasekararaj AG, et al. Blood. 2019;133:540-549.10)Lee JW, et al. Blood. 2019;133:530-539.11)Roth A, et al. ECTH 2019. 2-4 Oct 2019; Glasgow, UK.12)Lee JW, et al. Lancet Haematol. 2023;10:e955-e965.

13.

第69回 傾向スコアマッチング法とは【統計のそこが知りたい!】

第69回 傾向スコアマッチング法とは傾向スコアマッチング法(propensity score matching methods)は、1983年に、ポール・ローゼンバウム(Paul Rosenbaum)とドナルド・ルービン(Donald Rubin)の2人が発表した解析方法です。臨床研究を行う際、目的変数と目的変数に関わる因子についての関係を調査・解析する方法として、単変量解析(1変量解析)と多変量解析(2~3つ以上の変数)があります。変数が2つの場合は2変量解析(相関分析)です。単変量解析とは、目的変数に関わる因子(説明変数または共変量)が1つの場合の解析です。基本統計量(平均値/標準偏差)、t検定、カイ2乗検定、ログランク検定(カプランマイヤー曲線)などがあります。多変量解析とは、説明変数や目的変数が2つ以上ある場合の解析です。たとえば、目的変数が「ある重篤な疾患で手術治療をした患者の生存・死亡」、説明変数が「年齢・性別・BMI・発症から手術までの時間・手術中輸血量」の5因子のような場合です。このように、多変量解析に用いるいくつかの説明変数は目的変数に直接関わるだけではなく、説明変数間同士でも影響し合っている場合が多くあります。これを「交絡因子」と言い、交絡した因子は、しばしば解析の妨げになります。この交絡因子の影響を効果的に取り除くための手法の1つに「傾向スコアマッチング法」があり、近年多く使用される解析法となっています。交絡因子は、調べようとする因子以外の因子で、結果(目的変数)に影響を与えるものであり、交絡因子であるための3つの条件としては、(1)交絡因子は問題となっている目的変数に影響を与える可能性のある因子(2)問題となっている要因(原因)と関係がある(3)問題となっている要因と結果の因果連鎖の中間変数ではないがあります。■事例で探る交絡因子簡単な事例で解説します。健康診断で肝臓機能の検査値の1つにγ-GTPがあります。γ-GTPは肝臓や胆管の細胞がどれくらい壊れたかを示す指標で、検査値が成人男性の場合100(基準は50)を超えると、肝硬変、肝がん、脂肪肝、胆道疾患の可能性があるといわれています。表1のデータは100人の成人男性について、γ-GTP、飲酒量(1ヵ月に飲酒する日数)、喫煙有無、ギャンブル嗜好(7件法)を調べたものです。表1 成人男性100人のγ-GTP、飲酒量、喫煙、ギャンブルの調査データ画像を拡大するそれでは、表1のデータを用いて以下の3つを検証してみましょう。(1)飲酒量はγ-GTPに関係があるかを検証する。(2)喫煙有無はγ-GTPに関係があるかを検証する。(3)ギャンブル嗜好はγ-GTPに無関係であることを検証する。■γ-GTPの2群間の有意差検定γ-GTPの「50以上」を群1=高群、「49以下」を群2=低群として、γ-GTP(2群)のデータを作成しました。1)飲酒量の平均は、高群16.2(日)、低群11.0(日)で高群が低群を5.2ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、飲酒量はγ-GTPに関係があることが検証できました。2)喫煙有無において「有り」の割合は、高群45.0%、低群18.3%で高群が低群を26.7ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、喫煙有無はγ-GTPに関係があることが検証できました。3)ギャンブル嗜好程度の平均は、高群4.03(点)、低群3.17(点)で高群が低群を0.86ポイント上回った。p値0.0252<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。ギャンブル嗜好程度はγ-GTPに無関係と思われていたが関係性があるという結論になりました。■相関分析(表2)(1)飲酒量とγ-GTPとの相関係数は0.6658(p値<0.05)で、飲酒量はγ-GTPへの影響要因といえます。(2)喫煙有無はγ-GTPとの相関係数0.3076(p値<0.05)で、喫煙有無はγ-GTPへの影響要因といえます。※喫煙有無は距離尺度ではないですが、「喫煙しない」を0点、「喫煙する」を1点として距離尺度に変換して相関係数を算出しました。(3)ギャンブル嗜好とγ-GTPとの相関係数は0.3580(p値<0.05)で、ギャンブル嗜好はγ-GTPへの影響要因といえます。表2 表1データの相関分析表相関関係を図1に示します。図1 変数の相関関係「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関は0.36、「γ-GTPと喫煙有無」は0.31で前者の方が高い。ギャンブル嗜好の方が喫煙有無より、γ-GTPに影響度が高いといえるでしょうか?「喫煙有無とギャンブル嗜好」の相関は0.37、「飲酒量とギャンブル嗜好」の相関は0.30でどちらも相関関係がみられ、喫煙する人、飲酒量が多い人ほどギャンブル嗜好程度が高いといえます。ギャンブル好きだからγ-GTPが高いのではなく、ギャンブル好きは喫煙し、飲酒量が多いからγ-GTPが高いと推察できます。「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関0.36は見かけの相関といい、「γ-GTPとギャンブル嗜好」の真の関係は喫煙有無や飲酒量の影響を除去したものでなければなりません。このような真の関係を把握する方法の1つに、傾向スコアマッチング分析があります。■傾向スコアマッチング分析とは高群は多量飲酒者や喫煙者が多く、低群は少量飲酒者や非喫煙者が多い。このような状況でギャンブル嗜好程度の平均について高群と低群を比較すれば「ギャンブル嗜好と飲酒量や喫煙は相関関係がある」ので、ギャンブル嗜好の程度は高群の方が低群より高くなるのは当然の結果となってしまいます(表3)。表3 高群と低群の比較と平均のまとめギャンブル嗜好程度の平均を高群と低群で比較する際、両群の飲酒量や喫煙有無が同等であれば真の比較ができるようになります。すなわち、高群と低群で飲酒量や喫煙有無が似ているサンプルだけを取り出して比較すればよいわけです。具体的には両群から似ている要素を持つデータをみつけてペアにすることです。※統計学において異なるサンプルで,似ている要素(交絡因子)をもつデータをみつけてペアにすることを「マッチング」と言います。14人について、飲酒量・喫煙有無から各サンプルがγ-GTP高群となる確率を求めてみましょう(表4)。両群から確率が似ている(同じ)サンプルをみつけてペアにします。高群6人、低群8人においてペアは3人である。選ばれた3人は、「飲酒量・喫煙有無」の状況(傾向)が似ている人であるということになります。確率を「傾向スコア」と言います。同じような傾向を持つ人をペアにする方法を「傾向スコアマッチング」と言います。表4 事例の傾向スコアマッチングの結果傾向スコアは,目的変数を高群=1,低群=0、説明変数を交絡因子である飲酒量、喫煙有無にしてロジスティック回帰を行うことで求められます。ロジスティック回帰で導かれる各サンプルの判別スコアを傾向スコアとします。マッチングされたペアデータについて、検証したい原因項目(具体例はギャンブル嗜好程度)と目的変数(γ-GTP)について相関検定や有意差検定を行います。交絡因子の傾向スコアでマッチングしペアを見つけ、ペアデータについて目的変数と原因変数の関係を検証する方法を「傾向スコアマッチング分析」と言います(図2)。図2 傾向スコアマッチング分析の整理■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その1)質問9(続き) 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その2)質問11 多変量解析とは何か?(その1)質問11 多変量解析とは何か?(その2)

14.

低リスク骨髄異形成症候群、imetelstatが有望/Lancet

 赤血球造血刺激因子製剤(ESA)が無効または適応とならない、多量の輸血を受けた低リスク骨髄異形成症候群(LR-MDS)の治療において、テロメラーゼ阻害薬imetelstatはプラセボと比較して、赤血球輸血非依存(RBC-TI)の割合が有意に優れ、Grade3、4の有害事象の頻度が高いものの管理可能であることが、ドイツ・ライプチヒ大学病院のUwe Platzbecker氏らが実施した「IMerge試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年12月1日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 IMerge試験は、17ヵ国118施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年9月~2021年10月に患者の登録が行われた(Janssen Research & DevelopmentとGeronの助成を受けた)。 年齢18歳以上、ESA投与で再燃または不応、あるいはESAが非適応のLR-MDS(国際予後予測スコアリングシステム[IPSS]基準で病変のリスクが低[low]~中等度-1[intermediate-1])の患者を、imetelstat 7.5mg/kgまたはプラセボを4週ごとに2時間で静脈内投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行、許容できない毒性、患者による同意の撤回のいずれかに至るまで投与を継続した。 主要エンドポイントは8週間のRBC-TIとし、ITT集団における無作為化の日から次のがん治療(治療法がある場合)の開始まで、少なくとも8週間連続して赤血球輸血を受けなかった患者の割合と定義した。RBC-TI期間、HI-Eも良好 178例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:66~77]、男性62%)を登録し、imetelstat群に118例、プラセボ群に60例を割り付けた。全体で、過去8週間に受けていた赤血球輸血の中央値は6.0単位以上であった。また、160例(90%)がESA、11例(6%)が赤血球成熟促進薬luspaterceptの投与を受けていた。追跡期間中央値は、imetelstat群が19.5ヵ月(IQR:12.0~23.4)、プラセボ群は17.5ヵ月(12.1~22.7)だった。 RBC-TIが8週間以上持続した患者の割合は、プラセボ群が9例(15%、95%信頼区間[CI]:7.1~26.6)であったのに対し、imetelstat群は47例(40%、30.9~49.3)と有意に優れた(群間差:25%、95%CI:9.9~36.9、p=0.0008)。 RBC-TIが24週間以上持続した患者の割合(28% vs.3%、群間差:25%、95%CI:12.6~34.2、p=0.0001)、主要エンドポイントを満たした患者におけるRBC-TIの期間中央値(51.6週間 vs.13.3週間、ハザード比[HR]:0.23、95%CI:0.09~0.57、p=0.0007)は、いずれもimetelstat群で優れ、改訂IWG 2018基準による血液学的改善-赤血球反応[HI-E]に基づく血液学的奏効率(42% vs.13%、群間差:29%、95%CI:14.2~40.8)も、imetelstat群で良好だった。Grade3、4の好中球減少、血小板減少の頻度が高い 主要エンドポイントを満たした患者における血中ヘモグロビン値の試験薬投与前から最も長いRBC-TI期間までの増分の中央値は、imetelstat群が3.55g/dL、プラセボ群は0.80g/dLであった。また、試験期間中における経時的な赤血球輸血量の減少の平均値はimetelstat群で大きかった(最小二乗平均差:-1.0単位、95%CI:-1.91~-0.03)。 試験期間中のGrade3、4の有害事象は、imetelstat群で91%(107/118例)に発現し、プラセボ群の47%(28/59例)に比べ高率であった。プラセボ群と比較してimetelstat群で頻度の高かったGrade3、4の有害事象として、好中球減少(68% vs.3%)と血小板減少(62% vs.8%)を認めたが、これらは可逆的で管理可能であった。治療関連死の報告はなかった。 著者は、「imetelstatは、LR-MDS患者の幅広い集団において治療選択肢となる可能性があり、この集団にはESAが奏効しなかった環状鉄芽球陰性の患者や、ESAが非適応の患者も含まれる」としている。

15.

小容量の採血管への切り替えでICU患者の輸血回数が減少

 集中治療室(ICU)に入室中の患者では、状態把握のために毎日、複数回の血液検査が行われる。この際、多くの病院で採血に用いられている標準的なサイズの採血管を小容量のものに変更することで患者に対する輸血の必要性が減り、赤血球製剤の大幅な節約につながり得ることが、大規模臨床試験で示された。オタワ病院(カナダ)のDeborah Siegal氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に10月12日掲載された。 Siegal氏は、「採血管1本当たりの採血量は比較的少ないが、ICU入室患者は通常、毎日、複数回の採血を必要とする。これにより大量の血液が失われ、貧血や赤血球数の減少がもたらされる可能性がある。しかし、ICU入室患者には、このような失血に対処できるような造血機能がないため、たいていの場合、赤血球製剤の輸血が必要になる」と説明する。 ほとんどの病院で用いられている標準的な採血管の場合、1本当たり4〜6mLの血液が自動的に採取される。しかし、通常の臨床検査で必要とされる血液量は0.5mL以下である。つまり、標準的な採血管を使っての採血では、採取した血液の90%以上が無駄になるということだ。これに対して、小容量(1.8〜3.5mL)の採血管は内部の真空度が低いため、自動的に採取される血液の量が標準的な採血管の半分程度になる。 この試験では、カナダの25カ所のICUを対象に、標準的な採血管から小容量の採血管に切り替えることで、血液検査に影響を与えることなく患者への輸血頻度を減らせるのかが評価された。試験は、コンピューターが生成したランダム化スケジュールに則り、クラスター(ICU)単位で介入時期をランダム化するStepped-wedgeクラスターランダム化比較試験のデザインで実施された。対象は、ICU入室が48時間未満の患者を除外した2万7,411人で、主要評価項目は、患者ごとのICU入室当たりの赤血球製剤輸血の単位(1回の献血で作成される製剤が1単位)であった。 その結果、赤血球製剤輸血の単位の最小二乗平均は、小容量の採血管への切り替え前で0.80(95%信頼区間0.61〜1.06)、切り替え後で0.71(同0.53〜0.93)であり、相対リスクは0.88(95%信頼区間0.77〜1.00、P=0.04)と切り替え前後で有意な差が認められた。切り替え前後でのICU入室患者100人当たりでの赤血球製剤輸血の単位の絶対差は9.84(95%信頼区間0.24〜20.76)単位であった。切り替え前後で、採血量が不十分で検査に支障が生じた例はまれだった(0.03%以下)。 こうした結果を受けてSiegal氏は、「この研究により、標準的な採血管から小容量の採血管に切り替えるだけで、血液検査に支障を来すことなく、ICU入室患者に対する赤血球製剤の輸血頻度を減らすことができる可能性のあることが明らかになった」と結論付けている。その上で、「誰もが、医療をより持続可能なものにし、赤血球製剤の供給を維持するための方法を模索している今の時代において、この研究は、悪影響を及ぼすこともコストを増加させることもなく簡単に実施できる解決策を提供するものだ」と述べている。

16.

心理的安全性の確保【Dr. 中島の 新・徒然草】(501)

五百一の段 心理的安全性の確保こないだ2023年が始まったと思ったら、もう11月です。年を取るとともに時間の過ぎるのが速くなりました。そろそろ年賀状の準備を始めなくてはなりません。さて、広島で行われた国立病院総合医学会では、医療安全のシンポジウムで「医療従事者の心理的安全性を確保するための工夫」というタイトルで話をしました。これは座長からの「医療安全+心理的安全性」というテーマで発表してほしいというリクエストに応えたものです。私にとっての最大の医療安全は「大過なく脳外科手術を終える」ということに尽きます。その一方で、心理的安全性という言葉には馴染がなかったので自分なりに調べました。以下、医療安全と心理的安全性について学会で述べた事を説明しましょう。脳神経外科手術における優先順位というのは、1: 麻痺や意識障害などの後遺症を出さない2: 動脈瘤クリップや腫瘍摘出などの目的を達する3: 速い手術ということになるかと思います。手術は「山頂にある宝物を持って帰る」というミッションにたとえることができます。宝物を目指す途中で遭難するのは論外、まずは無事に帰って来ることが最も大切です。とはいえ、やはり帰った時に宝物を持っていなかったらガッカリすることでしょう。もちろんサッと行ってサッと無事に帰り、目的も達成するに越したことはありません。つまり「遭難せずに宝物をスムーズに持って帰るミッション」という意味で「後遺症を出さずに目的を達する速い手術」が望まれるわけです。が、遭難しないことが最優先なので、時には勇気ある撤退も必要になることでしょう。で、これらを達成するために私がやっていることは、1: 他人様のアドバイスに耳を傾けること2: 多くの人の協力を得ることです。実例を挙げましょう。私が顕微鏡手術をしていると手術室に置かれた巨大モニターを見ている人たちから、「中央じゃなくて、左側の血管に吻合したほうがいいんじゃないですか」とか「今の針糸は内膜を捉えていないのでは?」とか、結構、言われ放題。わざわざ声に出すくらいですから、いちいちもっともな意見で、大いに参考にしています。「六十にして耳順う」とはよく言ったもの。また、先日の巨大腫瘍の摘出なんかは、被膜の剥離と腫瘍摘出で疲労困憊。途中でほかの術者に代わってもらいました。その術者も出血の多さに4時間ほどで戦意喪失。さらに別の術者に代わってもらい、ようやく全摘できました。何人掛かりでやろうが、何時間掛かろうが、結果が良ければそれで良しです。このように遠慮なくアドバイスしたり交代したりすることができる、というのが心理的安全性というものだろうと思います。心理的安全性というのは、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が1990年代に言い出した概念だそうです。彼女は「率直に議論しても人間関係が壊れないチーム」を心理的安全性の高い組織だと言います。最近になって心理的安全性という言葉が流行り出したのは、ピョートル・フェリクス・グジバチさんの影響かもしれません。彼は、あのGoogleでの研究「プロジェクト・アリストテレス」で心理的安全性の高いチームが生産性も高かったということを見出しました。グジバチさんはポーランド生まれですが、千葉大学にいたことがあるそうで、日本語もペラペラです。YouTubeでグジバチさんがしゃべっているのを見ると、「心理的安全性の高い組織には残酷な率直さがある」と発言していました。彼は、例として「チャック開いてますよ」という指摘を挙げています。確かにこのようなことを言われるのは恥ずかしいですが、指摘されなかったら大変なことになってしまいます。もっとも私なんかは関西人なので、もし「チャックが開いてるよ」と言われたら、「風に当てて冷やしていたんや」と返してしまうかもしれません。ともあれ、こういった率直なコミュニケーションはいろいろな場面で大切だと思います。さらに私が心掛けているのは、手術室での麻酔科医とのコミュニケーションです。かなり出血していると思えば「体感で500mLは出ています。必要なら遠慮なく輸血してください」と言うことにしています。大量出血している時なんかは出血量のカウントが追いついておらず、麻酔科医が事態を把握できていないことがあるので、早めに声を掛けておくべきですね。また、長時間になってしまった手術では、麻酔科医に「もう先が見えてきました」とか「もう少し止血したら閉頭にかかります」とか、そういう声掛けをしておくと全体にスムーズに進行するものと思います。ということで、学会では私を含めて3人の演者によるシンポジウム形式のセッションでしたが、皆が心の中で感じていたことだったのか、思いがけず質疑応答も盛り上がりました。もちろん心理的安全性の高い組織といっても、「なあなあ」に陥ってしまってはなりません。やはり、高く明確な目標を掲げて皆で頑張る、ということが大切ですね。ということで最後に1句霜月や チャックが開き 冷えすぎだ

17.

早期中絶後のRh検査、免疫グロブリン投与の必要性/JAMA

 妊娠第1期の人工妊娠中絶はRh感作のリスクではなく、妊娠12週より前の人工妊娠中絶後のケアとして、Rh検査および免疫グロブリンの投与は不要であることが、米国・ペンシルベニア州立大学のSarah Horvath氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年9月26日号で報告された。米国の前向きコホート研究 本研究は、妊娠12週0日以前に人工妊娠中絶(薬剤、手術)を受けた女性506例の中絶前後の血液サンプルを用いて、胎児性赤血球(fRBC)が検出されるかを検証する米国の多施設共同前向きコホート研究である(米国・Society of Family Planning Research Fundの助成を受けた)。 主要アウトカムは、妊娠第1期の人工妊娠中絶後に、fRBC数がRh感作の閾値(総赤血球数500万個当たりのfRBC数125個)を超えた女性の割合であった。 506例のうち、319例(63.0%)が薬剤による中絶、187例(37.0%)は手術による中絶を受けていた。平均年齢は27.4(SD 5.5)歳で、313例(61.9%)が黒人、123例(24.3%)は白人だった。中絶後fRBC数と関連するベースラインの背景因子はなかった 506例中3例は、ベースライン時にfRBC数がRh感作閾値を超えて上昇しており、このうち1例(0.2%、95%信頼区間[CI]:0~0.93)は中絶後に上昇していた。これ以外に、人工妊娠中絶後にfRBC数がRh感作閾値を超えて上昇した例はなかった。 fRBC数中央値は、薬剤による中絶では4.0個(最大58個)、手術による中絶では3.0個(最大32個)であり、fRBC数が閾値を超えて上昇した例の割合は、それぞれ0%(95%CI:0~1.4)、0%(0~1.6)であった。 最適化された測定法では、薬剤による中絶と手術による中絶で、中絶後のfRBC数の分布に統計学的な有意差は認めなかった。 ベースラインからのfRBC数の変化量中央値は0個であり、fRBC数の95パーセンタイル値は24個、99パーセンタイル値は35.6個であった。 また、中絶前と後のfRBC数には強い関連性(p<0.001)を認めたが、中絶後のfRBC数と有意な関連を示すベースラインの患者背景因子はなかった。 著者は、「これらの結果は、妊娠第1期の人口妊娠中絶後にRh検査や免疫グロブリン投与は不要であることを示唆している。このエビデンスは、妊娠第1期の人工妊娠中絶後のRh免疫グロブリン投与に関する国際的なガイドラインに、有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

18.

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」【下平博士のDIノート】第129回

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」今回は、人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」を紹介します。本剤は、国内で初めて承認された経口の人工妊娠中絶薬であり、中絶を望む女性にとって身体的にも精神的にも負担が少ない薬剤と考えられます。<効能・効果>子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶の適応で、2023年4月28日に製造販売承認を取得し、5月16日より販売されています(薬価基準未収載)。本剤を用いた人工妊娠中絶に先立ち、本剤の危険性および有効性、本剤投与時に必要な対応を十分に説明し、同意を得てから本剤の投与を開始します。なお、異所性妊娠に対しては有効性が期待できません。<用法・用量>ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。30分後も口腔内に錠剤が残っている場合は飲み込みます。ミフェプリストン投与後に胎嚢の排出が認められた場合、子宮内容物の遺残の状況を踏まえてミソプロストールの投与の要否を検討します。<安全性>国内第III相試験において1%以上に認められた副作用は、下腹部痛、悪心、嘔吐、下痢、発熱、悪寒でした。重大な副作用として、重度の子宮出血(0.8%)のほか、感染症、重度の皮膚障害、ショック、アナフィラキシー、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、妊娠9週以下の人に対する人工妊娠中絶の薬です。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬剤と、子宮収縮作用により子宮内容物を排出させる薬剤を組み合わせたパック製剤です。2.この薬の投与後は下腹部痛や子宮出血が現れて一定期間継続します。まれに重度の子宮出血が生じて貧血が悪化することがあるため、自動車の運転などの危険を伴う機械操作を行う場合は十分に注意してください。3.服用後、2時間以上にわたって夜用ナプキンを1時間に2回以上交換しなければならないような出血が生じた場合、発熱、寒気、体のだるさ、腟から異常な分泌物などが生じたときは速やかに医師に連絡してください。4.授乳中に移行することが知られているので、授乳をしている場合は事前にお伝えください。5.子宮内避妊用具(IUD)またはレボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS)を使用中の人はこの薬の投与を受ける前に除去する必要があります。<Shimo's eyes>本剤は、国内で初めて承認された人工妊娠中絶のための経口薬です。これまで妊娠初期の中絶は掻把法や吸引法によって行われてきましたが、今回新たに経口薬が選択肢に加わりました。ミフェプリストンとミソプロストールの順次投与による中絶法は、世界保健機関(WHO)が作成した「安全な中絶−医療保険システムにおける技術及び政策の手引き−」で推奨されており、海外では広く使用されています。使用方法は、1剤目としてミフェプリストン錠1錠を経口投与し、その36~48時間後にミソプロストール錠4錠をバッカル投与します。ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬であり、プロゲステロンによる妊娠の維持を阻害する作用および子宮頸管熟化作用を有します。ミソプロストールはプロスタグランジンE1誘導体であり、子宮頸管熟化作用や子宮収縮作用を有します。両剤の作用により妊娠の継続を中断し、胎嚢を排出します。国内第III相試験では、投与後24時間以内の人工妊娠中絶が成功した患者の割合は93.3%で、安全性プロファイルは認容できるものでした。本剤投与後に、失神などの症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合があります。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では敗血症や中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、異常が認められた場合に連絡を常に受けることができる体制や、ほかの医療機関との連携も含めた緊急時に適切な対応が取れる体制で本剤を投与することが求められています。併用禁忌の薬剤として、子宮出血の程度が悪化する恐れがあるため、抗凝固薬(ワルファリンカリウム、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、EPA製剤など)があります。また、ミフェプリストンの血漿中濃度が低下し、効果が減弱する恐れがあるため、中~強程度のCYP3A誘導剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)も併用禁忌となっています。本剤の承認申請が行われた2021年12月以降、社会的に大きな関心を集めました。厚生労働省が承認にあたってパブリックコメントを実施したところ1万1,450件もの意見が寄せられ、そのうち承認を支持する意見が68.3%、不支持が31.2%でした。欧米では経口薬による人工妊娠中絶法は30年以上前から行われていて、先進国を中心に主流になりつつあります。中絶を望む女性は、健康上の懸念がある、性的暴力を受けた、若すぎる、経済的に困窮している、パートナーの協力を得られないなどさまざまな背景があります。わが国では現在、薬局やインターネットで購入することはできませんが、多くの議論を経て、中絶を望む人たちにとって、医学的にも精神的にも寄り添うことのできるシステムが構築されることが望まれます。

19.

保険加入状況によって、治療や退院計画は変わるか?/BMJ

 米国・イエール大学のDeepon Bhaumik氏らは、米国の65歳以上の高齢者において、治療や退院の決定が保険の適用範囲に基づいて画一化されているかどうかを調べる検討を行った。米国外科学会の全米外傷登録データバンク(NTDB)の約159万例の外傷患者を対象に調べた結果、そのようなエビデンスは認められなかったこと、類似の外傷患者であっても治療の差はみられ、その差は退院計画のプロセスの間に生じていたことが示唆されたという。BMJ誌2023年7月11日号掲載の報告。全米900ヵ所超の外傷センターのデータを調査 研究グループは、2007~17年の米国外科学会NTDBを基に、全米900ヵ所以上のレベル1または2の外傷センターを訪れた50~79歳について調査を行った。65歳でのメディケアへの加入が、医療サービスの内容とアウトカムに与える影響について、回帰不連続アプローチ法を用いて検証した。 主要アウトカムは、加入する医療保険の変更、合併症、院内死亡、救急蘇生室での治療プロセス、入院中の治療パターン、65歳時点の退院先だった。65歳メディケア加入に伴い、自宅への退院は約2ポイント減 158万6,577例の外傷患者が対象として包含された。外傷患者があらゆる健康保険でカバーされる割合は、65歳でのメディケア加入に伴い9.6ポイント(95%信頼区間[CI]:9.1~10.1)増加していた。 65歳でのメディケア加入は、受診当たりの入院日数短縮と関連していることが認められた(-0.33日[95%CI:-0.42~-0.24]、約5%)。それに伴い、介護施設への退院の増加(1.56ポイント、95%CI:0.94~2.16)、その他入院施設への退院の増加(0.57ポイント、0.33~0.80)が認められ、一方で自宅への退院が大きく減少していた(-1.99ポイント、-2.73~-1.27)。 入院中の治療パターンについては、比較的変化は小さく(あるいはほとんどない)、救命治療(たとえば輸血)の実施や死亡率にも変化はみられなかった。

20.

ASCO2023 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2023の年次総会(6月2日~6日)は、ようやくCOVID-19が感染症法上の5類扱いとなったことで海外への渡航もしやすくなり、米国シカゴで現地参加された日本人の先生方もおられたと思います。今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年と同様に、現地まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間や終了後に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病/MDS関連3演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連SWOG S1826, a randomized study of nivolumab(N)-AVD versus brentuximab vedotin(BV)-AVD in advanced stage (AS) classic Hodgkin lymphoma (HL). (Abstract #LBA4)本臨床試験は、プレナリーセッションで発表された注目演題である。昨年のASCO2022にて、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、それまでの標準治療であったABVD療法と、ブレンツキシマブ ベドチンとブレオマイシンを置き換えたA-AVD療法を比較したECHELON-1試験の6年のフォローアップの結果が示され、全生存率でもA-AVDがABVDよりも優れていたという結果が発表された。今回の試験では、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブとAVDを併用したN-AVDと、新たな標準治療となったA-AVDを比較した試験の中間解析結果が報告された。N-AVD(496例)、A-AVD(498例)に割り付けられた。本試験では、ECHELON-1試験には組み入れられなかった12~17歳の未成年患者が約4分の1含まれていた。主要評価項目のPFS(1年時点)は、94%と86%でHRは0.48と有意にN-AVDが優れていた。また、副作用として、G-CSFの1次予防の実施がA-AVDではほぼ全例、N-AVDでは約半数だったことで、好中球減少はN-AVDで多く認められたが、感染症の発症率はほぼ同等であった。末梢性神経障害はA-AVDで多く認められた一方、ニボルマブによる免疫関連の副作用(IrAE)は、ほとんど問題なかった。今後、フォローアップを継続し、晩期の副作用の発現や再発後の治療選択なども見ていく必要がある。Results of a phase 3 study of IVO vs IO for previously untreated older patients (pts) with chronic lymphocytic leukemia (CLL) and impact of COVID-19 (Alliance). (Abstract #7500)未治療高齢CLL患者に対し、イブルチニブ(I)とオビヌツズマブ(O)併用後のI治療継続(IO)と、IOにベネトクラクス(V)を12ヵ月間併用し、MRD陰性の場合は治療を終了し、MRDが残存する場合はI治療を継続する(IVO)治療を比較する第III相試験の中間解析結果が報告された。465例(IO群:232例、IVO群233例)がエントリーされ、18ヵ月時点でのPFSは、IO群87%、IVO群85%で差を認めなかった。14サイクル終了時点でのCR率とMRD陰性率は、IO群で31.3%と33.3%、IVO群で68.5%と86.8%であり、IVO群で高かった。18ヵ月時点でのIVO群のMRD陰性例と陽性例のPFSには差がみられなかった。有害事象としては、両群ともCOVID-19による死亡例が最も多く(IVO群>IO群)、COVID-19の流行により、臨床試験の結果は大きな影響を受けることとなった。今後、長期のフォローアップにより、MRD陰性例(治療中止例)のPFSのデータが出た時点で、Vの併用の意義が明らかになると考える。A phase 2 trial of CHOP with anti-CCR4 antibody mogamulizumab for elderly patients with CCR4-positive adult T-cell leukemia/lymphoma. (Abstract #7504)日本からの発表。同種移植の適応とならない高齢アグレッシブCCR4陽性ATL患者に対するモガムリズマブ(Moga)とCHOP-14の併用療法(Moga-CHOP-14)の第II相試験の結果である。アグレッシブATLは難治性の疾患であり、同種移植の適応とならない患者の生命予後はきわめて不良である。寛解導入療法のCHOP療法は、奏効率も低く、生命予後の改善も乏しい。50例のATL患者(年齢中央値74歳)にMoga-CHOP-14×6サイクル+Moga×2サイクルが実施された。1年PFSが36.2%、ORRが91.7%(CRが64.6%)、1年OSが66.0%であった。主な有害事象は、血球減少とFN(G3以上64.6%)、皮疹(G3以上20.8%)であった。Moga-CHOP-14療法は、高齢ATL患者に対する治療オプションとして有用と考えられる。Epcoritamab + R2 regimen and responses in high-risk follicular lymphoma, regardless of POD24 status. (Abstract #7506) 再発・難治の濾胞性リンパ腫(FL)に対し、CD20×CD3の二重特異性抗体薬epcoritamab(Epco)とリツキシマブ・レナリドミド(R2)を併用した治療の第II相試験(Epcoの投与スケジュールが異なる2群)の統合解析結果が報告された。2つの試験の対象となった111例が解析された。患者の年齢中央値は65歳で、CS III/IVが22%/60%であり、FLIPIの3〜5が58%であった。57%は前治療のライン数が1であり、POD24は38%が該当した。全奏効率は98%、完全代謝奏効(CMR)は87%であった。POD24に該当するハイリスク患者においてもそれぞれの奏効率は98%/75%と、治療効果は良好であった。有害事象は、CRSと好中球減少をそれぞれ48%で認めたが、CRSは46%がGrade1〜2であり、Grade3は2%であった。また、有害事象によって治療中止となった例はなかった。現在、第III相試験(EPCORE FL-1試験、EPCORE NHL-2試験)が行われている。多発性骨髄腫関連Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KRd) versus elotuzumab and KRd in transplant-eligible patients with newly diagnosed multiple myeloma: Post-induction response and MRD results from an open-label randomized phase 3 study. (Abstract #8000)未治療の多発性骨髄腫(MM)患者に対するKRd療法とエロツズマブ(E)を併用したE-KRd療法の第III相比較試験(DSMM XVII試験)が行われた。試験デザインは6サイクルの寛解導入後、1回の自家移植(CRが得られない場合あるいはハイリスク染色体異常の場合は2回)を実施し、4サイクルの地固め実施後、レナリドミド(R)あるいはエロツズマブ+レナリドミド(ER)の維持療法を行うこととなっている。579例がランダム化された。寛解導入後の効果について、主要評価項目の1つでもあるVGPR以上でMRD陰性例の割合は、KRd/E-KRdで、35.4/49.8%であり、Eの併用効果を認めた。Grade3以上の有害事象もE併用により、66.3%から75.3%に増えているが、感染症による死亡例はそれぞれ0.3/1.2%で差はなく、COVID-19例も4.4/3.2%で差を認めなかった。未治療MMに対し、Eの併用の有用性が初めて示された試験である。First results from the RedirecTT-1 study with teclistamab (tec) + talquetamab (tal) simultaneously targeting BCMA and GPRC5D in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM). (Abstract #8002)トリプルクラス抵抗性のMM患者の生命予後は、きわめて不良であり、それらの患者に二重特異性抗体薬が高い有効性を示すことが報告され、欧米では承認されている。標的分子が異なるそれらの治療薬を併用することで、さらなる治療効果の増強が期待される。本発表では、BCMA×CD3の二重特異性抗体薬のteclistamab(Tec)とGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)の併用治療の第Ib相試験(RedirecTT-1試験)の結果が報告された。93例の再発・難治MM患者(前治療のライン数:4、33.3%がハイリスクの染色体異常を有し、79.6%がトリプルクラスレフラクトリー、37.6%が髄外腫瘤を有していた)が参加している。本試験は用量設定試験であり、用量は4段階あるが、有効性は全奏効率が86.6%、CR以上が40.2%であり、第II相の推奨用量(Tec:3.0mg/kg+Tal:0.8mg/kg Q2W)では、全奏効率が96.3%、CR以上が40.7%と、優れた治療成績が示された。また、CRSや骨髄抑制などの有害事象は単剤治療とほぼ変わりなかった。今後のさらなる開発が期待される。Talquetamab (tal) + daratumumab (dara) in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated TRIMM-2 results. (Abstract #8003)再発・難治MM患者に対するGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)とダラツムマブ(Dara)を併用した試験(TRIMM-2試験)のアップデート成績が報告された。65例(前治療のライン数:5、トリプルクラス抵抗性:60%、抗CD38抗体薬抵抗性:78%、二重特異性抗体薬抵抗性:23%、BCMA標的治療歴:54%)が参加した。追跡期間中央値16ヵ月時点の成績は、全奏効率81%(VGPR以上:70%、CR以上:50%)であり、奏効が得られた症例の80.9%で、12ヵ月時点で奏効が持続しており、PFSの中央値は19.4ヵ月、1年PFS率は70%、1年OS率は92%であった。有害事象は既知のものであり、CRSも78%で認められたが、すべてGrade1〜2であった。TalとDaraの併用は、トリプルクラス抵抗性(とくに抗CD38抗体薬抵抗性)のMMに対し、新たな治療オプションとして注目される。白血病/MDS関連Efficacy and safety results from the COMMANDS trial: A phase 3 study evaluating lus patercept vs epoetin alfa in erythropoiesis-stimulating agent (ESA)-naive transfusion dependent (TD) patients (pts) with lower-risk myelodysplastic syndromes (LR-MDS). (Abstract #7003)赤血球輸血依存のLow-リスクMDS患者に対するluspatercept(Lus)とエリスロポエチン製剤(ESA)との第III相比較試験の中間解析結果が報告された。対象となった患者は、IPSS-RでのLow-リスクであり、環状鉄芽球の有無は問わず、血清Epo値が500U/L未満であり、ESAの投与歴がない輸血依存(4~12単位の輸血を8週間以上継続している)状態の患者であった。Lusは3週に1回の皮下注、ESAは週1回の皮下注にて投与され、24週以上継続した。Lusは178例、ESAは176例の患者が割り付けられた。主要評価項目である開始24週以内における12週以上の輸血非依存の達成率(Hb 1.5g/dL以上上昇を伴う)は、Lusで58.5%、ESAで31.2%であった。治療薬関連の副作用は、Lusで30.3%、ESAで17.6%に認められ、副作用による中止はLusで4.5%、ESAで2.3%であった。また、AMLへの進行は、それぞれ2.2%と2.8%であった。Lusは、輸血依存のLow-リスクMDSに対し、貧血の改善効果がESAよりも優れていることが示された。A first-in-human study of CD123 NK cell engager SAR443579 in relapsed or refractory acute myeloid leukemia, B-cell acute lymphoblastic leukemia, or high-risk myelodysplasia. (Abstract #7005)CD123(IL-3レセプターのα鎖)を発現している細胞とNK細胞を結び付けるSAR443579(SAR)の再発・難治AML、およびCD123陽性HighリスクMDS、B-ALL患者に対する第I/II相試験の結果が発表された。SARは、週2回と週1回の静脈内投与で2週間投与され(10~3,000μg/kg/dose)、その後、週1回(100~3,000μg/kg)の投与スケジュールとなり、寛解導入期は3ヵ月、その後、維持療法期には約28日ごとの投与となる。23例の患者(全員AMLの診断)が登録され、最高用量の3,000μg/kgまで用量制限毒性は認められなかった。有害事象で最も多かったのはIRR(13例)であり、CRSは1例(Grade1)のみに認められた。有効性は、3例でCR/CRiが得られており、その3例は1,000μg/kgの投与量であった(1,000μg/kgでは8例中3例がCR/CRi:37.5%)。新たなNK細胞エンゲージャー治療薬の今後の開発の進展が期待される。Chemotherapy-free treatment with inotuzumab ozogamicin and blinatumomab for older adults with newly diagnosed, Ph-negative, CD22-positive, B-cell acute lymphoblastic leukemia: Alliance A041703. (Abstract #7006)未治療Ph陽性のALLに対し、TKIとブリナツモマブ(Blina)を併用したケモフリーレジメンの有用性が示されているが、本研究では、未治療Ph陰性、CD22陽性のB-ALLの同種移植の適応とならない高齢患者に対し、イノツズマブ オゾガマイシン(Ino)とBlinaの併用によるケモフリーレジメンが試験されている。Inoを1~2サイクル投与し、その後、Blinaで地固めを行う。33例(年齢中央値:71歳)が試験に参加し、最良治療効果のCRcは96%、1年EFS率が75%、1年OS率が84%であった。主な有害事象は骨髄抑制(Grade3以上の好中球減少:87.9%、血小板減少:72.7%)で、FNは21.2%にみられ、有害事象での死亡例は2例(脳症と呼吸不全)のみにみられた。通常の化学療法と比較し、とくに寛解期での死亡例が少なく、移植非適応のPh陰性ALL患者には、安全性の高い治療法である。おわりに以上、ASCO2023で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。ASCO2021、ASCO2022でも10演題を紹介しましたが、今年も昨年、一昨年と同様、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2024にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、円安が続く今日この頃[笑])。

検索結果 合計:245件 表示位置:1 - 20